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みなさん、こんにちは。「日本語教育3.0」管理人の佐々木です。
今回は、様々な教授法・教授理論についてお話するシリーズ第3弾として、サジェストペディアをとりあげたいと思います。

日本語教育能力検定試験対策の参考書などでは、サジェストペディアは「学習者をリラックスさせるために、カーペット敷きの部屋にくつろげるソファを置き(座らせ)、クラシック音楽を流し、暗示(suggestion)を与える」みたいなことが書いてあったりするので、肝心の授業の方はどうやって行うのか知られていないというか、変な教授法として誤解されているような気がしますが、提唱者ロザノフと彼の理論をもとにサジェストペディアを実践したガテバが考えたことや行ったことには、うなずける部分・参考にできる部分があるので、(本当に部分的なとりあげ方になるのですが、)それらを紹介していきたいと思います。

①暗示
どこで見聞きしたのかは忘れてしまったのですが、私が見聞きした物の中で、サジェストペディアでは教師が学習者に「外国語の習得は楽しく、易しいもの」と伝える(暗示をかける)とありました。サジェストペディアも、前回までのブログで紹介していたナチュラルアプローチの「情意フィルター仮説」と同様に、第二言語を学ぶ際の不安や恐怖や緊張等を取り除こうという考えのようです。また、学習者の誤りの訂正においても、(初級段階では)明確な訂正はしないという点もナチュラルアプローチと似ています。
かつて私が教えた学習者の中に、レッスンを始めて2,3回目の帰り際に「自分はもう十分に年を取っていて、日本語の習得は難しい」みたいなことを英語で言った方(実際の年齢は40手前)がいました。本人は「習得がうまく進まないけど、先生、悪く思わないでください」みたいな私に対する申し訳なさからそういう発言をしたのかもしれませんが、これだと自分で自分に対して悪い暗示をかけていることになるので、習得がはかどらなくなる可能性が大きいですよね(実際、習得はあまりはかどりませんでした)。

②学習者に名前と役割を与える
サジェストペディアの授業では、学習者に目標言語の名前が与えられます(日本語の学習者であれば、「佐藤」とか「田中」とか…)。また、人物の設定(医者とか大学生とか…)も与えらえ、授業で学習者は毎回その役割(名前と設定)を演じることになります。これも、前回のブログ(2022年8月22日付)で紹介した情意フィルターを低くする方法の「②ペープサートやパペットの利用」と少し似ているような気がしますが、サジェストペディアの場合は、毎回、授業の間ずっと別人格になりきる(なりきらなければならない)というところが大きな特徴です。

③音楽、絵、演劇など、芸術的要素を活用する
クラシック音楽を流しながら、教師が感情豊かに(?)読み上げる物語(時に会話文)を聞いたり、学習者だけではなく教師にも授業中の役割(別人格)が与えられ、寸劇のようなことをしてみたり…と、サジェストペディアでは言葉の奥にある感情というものを大切にしているように感じます。
これは、以前このブログのどこかで書いたかもしれないのですが、言語の授業では、誰が誰にどのようなシチュエーションで言っているのか分かる文を練習(言ったり書いたり聞いたり)したほうがいいし、その文に感情が表れていれば、その分だけ学習者にも伝わりやすい(習得にもつながりやすい)ということと通じていると思います。
どんな外国語であっても、怒鳴っている(声を荒げている)人がいたら、この人は怒っているんだろうなと感じますよね。ということは、その人の怒鳴っている(荒げている)声(音声)が聞き取れれば、その人の国の言葉では怒っている時(相手を威嚇したい時など)にはこういう表現を使うんだなと習得できるわけですよね。
こういった点で、サジェストペディアの芸術的要素というか、感情を大切にしている点は評価できるし、たとえサジェストペディアの手法で授業を行わないにしても、日本語の授業で扱う様々な文(特に、教師が挙げる例文)は無味乾燥なものにならないように注意する必要があるんだなと思います。

以上、サジェストペディア以外の方法で日本語を教える場合にも参考になる部分をとりあげただけで、サジェストペディアの全体像(授業の方法や手順)はつかめなかったと思うのですが、そのあたりは今回のブログを書くにあたって参考にした本『日本語教授法ワークショップ(増補版)』(凡人社)を読んでいただければと思います。
様々な教授法での日本語の授業(模擬授業)が収録された同名のDVD『日本語教授法ワークショップ』も(古いもの/1990年代のものですが)非常に参考になります。様々な教授法に興味のある方には見ることをおすすめします。

様々な教授法の話→サジェストペディア_b0420854_01302277.jpg
※今回参考にした本(表紙)の画像です。
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# by sv-sasaki | 2022-08-30 01:37 | 教授法の話 | Comments(0)

みなさん、こんにちは。「日本語教育3.0」管理人の佐々木です。
前回のブログ(2022年8月19日付)では、ナチュラルアプローチの提唱者クラッシェンが立てた5つの仮説の中の1つ「情意フィルター仮説」についてお話しましたが、今回は、学習者の情意フィルターを低くするために授業でできること(工夫?)を紹介していきたいと思います。

①ペア活動、グループ活動
クラスレッスンを常に「教師対学習者」のやりとりだけで進めるのではなく、時にペア活動やグループ活動を入れて、学習者同士でやりとりする時間を設けたほうがいいようです。
「教師対学習者」の一斉授業の際に学習者が発言する場合、失敗・間違いであるとか下手な発音・喋りであるとかを他の学習者や教師にさらけ出すことになるかもしれないというネガティブな感情(不安や恥ずかしさ等)があるわけですが、学習者同士の活動であれば、ペア/グループ以外の人には自分の発話を聞かれずにすむので、ネガティブな感情は少なめになります。また、ペア/グループの人と友人のような関係性が築かれている場合には、リラックスして活動に取り組むこともできます。
このようなペア活動、グループ活動を行っている際に教師が教室内の各ペア・各グループの活動を見て回っていると、教師に対しても話しかけやすくなり、学習者からの質問が増えるという効果もあります。

②ペープサート(棒に人物などの絵を貼り付けたもの)やパペットの利用
学習者に会話練習や会話の発表を行わせる際、ペープサートやパペットを持たせ、学習者本人ではなく、別人格(ペープサートの人物やパペットの動物など)が会話をしているんだという設定にしてあげると、学習者も自分自身が話すのではないという気持ちになり、第二言語(目標言語)で話しやすくなると言われているそうです。(←誰が言ったのか、あるいは何かで読んだのか、そのあたりは忘れてしまいました。すみません。)
私自身は、学習者に会話練習等をさせる際にペープサートやパペットはあまり使いませんが、せっかくの会話練習ですので、会話の内容に沿った物を持たせたり、つけさせたりして(メニューやチケットを持たせるとか、白衣を着せるとか、運転手やファストフード店員の帽子をかぶらせるとかして)、その会話練習の世界(状況)にしっかり入り込んで練習してもらおうとはしています。

③教師自身の写真の利用
当たり前のことかもしれませんが、教師が旅行先で撮った写真(教師自身も写っているもの)を学習者に見せると、たいていは、どこなのか、いつ行ったのか、だれと行ったのか等、活発に質問してくる(=発話に対するためらいが少なくなる=情意フィルターが低くなる)と思います。
作り物の人物(『みんなの日本語』のミラーさん等)ではなく、目の前に本当に存在している人物の写真を見るわけですから、情意フィルターうんぬんは抜きにして、学習者にも様々な感情・心情が生じる(特に、学習への興味が湧く)のではないかと思います。
そんな性質を利用して(?)、自分の家族の名称(祖父、祖母、父、母、…)を自分の家族の写真を使って、ナチュラルアプローチの考え方で(学習者に発話は求めず、yes-noの反応のみをさせるというやり方で)教える様子(模擬授業)が『日本語教授法ワークショップ』というDVDに収録されています。
私もこの模擬授業をまねして、ほぼ同じようなことをメキシコの日本語学校でやったことがあるのですが、その日の授業が終わり、学習者が帰る際に、「先生、日本語では本当に、自分の家族と他者の家族の構成員の呼び方が違うんだね」というようなことを(スペイン語で)言われ、学習者が言葉を習得できたかどうかは分からないけれども、この授業中の活動を通して何かしら学習者に感じ取ってもらえるものがあったのは良かったなと感じたことがあります。
まあ、写真に限らず、本物を授業で使用することには、それだけ学習者に訴えかけるもの(情意フィルターを低くする要素)があるのではないかと思います。

様々な教授法の話→ナチュラルアプローチ②_b0420854_23340995.jpg
※今回の画像(↑)は、様々なメニューとペープサート(みたいなもの)です。
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# by sv-sasaki | 2022-08-22 23:53 | 教授法の話 | Comments(0)

みなさん、こんにちは。「日本語教育3.0」管理人の佐々木です。
様々な教授法・教授理論についてお話しするシリーズ第2弾として、今回はナチュラルアプローチを取り上げたいと思います。

ナチュラルアプローチは、「アプローチ」=「提唱された理論」であって、具体的な教え方の手順(メソッド)があるわけではありません。しかしながら、このナチュラルアプローチの提唱者クラッシェンが立てた第二言語(目標言語)の習得に関する5つの仮説というものが非常に興味深いので、今回はその「5つの仮説」の中の1つ、「情意フィルター仮説」についてお話ししたいと思います。

「情意フィルター」というのは、第二言語(外国語)を学ぶ際の心理的な抵抗感のことです。それで、(すご~く簡単に言うと)情意フィルターが高いと(大きいと?)その学習者の第二言語の習得は進みにくくなるというのが「情意フィルター仮説」ということになります。

(あくまでも「仮説」であり、立証されたわけではありませんが、)この仮説をもとに、ナチュラルアプローチでの外国語の授業では、
  • 学習(習得)の初期には学習者に発話を強制しない
  • (教師は)学習者の誤りをはっきりと(明示的に)訂正しない
  • 学習者の発話は不完全でも許容して、コミュニケーション(意思疎通、会話を続けること)を優先させる
など、学習者の心理面(情意)に配慮する必要があると言っています。また、
  • 学習者が興味を持てるような教材を提供すること
  • 学習者がリラックスできる教室(クラス)を作ること
なども提案しています。

これらを、実際の授業ではどうするのか、もう少し踏み込んだところについてクラッシェンは、
  • 学習者に発話を強制しない → TPRのような、学習者に反応のみを求めるような活動を行う
  • 学習者が興味を持ち、リラックスして取り組めるもの → ゲーム等を活用する
このようなもの(こと?)が望ましいとしています。

私も、学習者の情意であるとかリラックス具合とか学習への抵抗感などと言語習得との関わりについてはちょっと思うところがあり、学習者の情意フィルターを低くするために行っていることがいくつかあります。そのあたりについては、また次回のブログでお話ししたいと思います。

様々な教授法の話→ナチュラルアプローチ①_b0420854_00553577.jpg
※クラッシェンと、もう1人のナチュラルアプローチの提唱者テレルによる著書(↑)が1980年代に日本でも出版されていたようです。
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# by sv-sasaki | 2022-08-19 23:01 | 教授法の話 | Comments(0)

みなさん、こんにちは。「日本語教育3.0」管理人の佐々木です。
今回は、TPRの、日本語の授業(初級)への利用の仕方PART2として、『みんなの日本語』2課での様々な物の名前の導入への利用について紹介したいと思います。

手順
1.教室の机をくっつけるなどして、導入する物(実物)を置けるスペースを確保する。
2.くっつけた机のまわりに学習者を集める(学習者は机のまわりに輪になるような感じ)
3.教師も学習者の輪に加わる。
4.教師が「○○を指します」と言って、(教師のみ)○○を指す。
5.教師が「○○を指しましょう」と言って、○○を指しながら、学習者も指すように促す。(教師が○○を指していないほうの手を動かすなどして「学習者の皆さんも指して」という感じを出す)
6.「○○を指しましょう」で色々な物を指しているうちに、「○○」と言っただけで指せる(反応できる)学習者が出てきたら、「○○を指してください」に指示を変え、(教師は指さずに)学習者だけが指す活動に変える。
7.だいたいの学習者が正しく物を指せるようであれば、個別に「○○を指してください」という指示を与える。(これで、各人が正しく物を指すことができたら、物の名前を覚えた/識別できていると言えます。)

この後は、教師が物を1つずつ手に取り、物の名前を学習者に言わせて、音(物の名前)に対して反応するだけでなく、言えるようになっているか確かめますが、
1人が1つ物を手に取る(あるいは「○○を取ってください」と言う指示で1人に1つ物を持たせる)→教師が、自分が手にしている物を指して「これは○○です。」と言う→学習者にも、手にしている物について「これは××です。」と言わせる、というふうにして「これは~です」という文型の導入と練習につなげていくこともできます。

最終的には、学習者への発話を求めているので、提唱者であるアッシャーのオリジナルTPRに沿ったものにはなっていないのですが、教師が発話することにより学習者に音を聞かせ、学習者はその音に反応することを通じて言葉を理解していくという部分は、他の教授法との併用も可能であるし、様々な教科書で日本語を教える際にも部分的に採り入れることができるものだと思います。

様々な教授法の話→TPR③/『みんなの日本語』2課で_b0420854_19325486.jpg
※写真(UPした画像)では様々な物を重ねて置いていますが、実際に教室で物を指す活動をする際には、何を指しているのか分かるように、重ねずに、それぞれの物を少し離して置きます。
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# by sv-sasaki | 2022-08-12 22:30 | 教授法の話 | Comments(0)

様々な教授法の話→TPR②

みなさん、こんにちは。「日本語教育3.0」管理人の佐々木です。
今回は、外国語教授法の一つ、TPRの、日本語の授業(初級)への利用の仕方PART1として、コースの初めのうちに「~ましょう」と「~ください」を教える(理解させる)というのを紹介したいと思います。

手順
  1. 教師、学習者ともに着席。
  2. 教師が「立ち上がってください」的な手振りとともに「立ちましょう」と言って、立ち上がる。※ここで、学習者の勘が悪く、教師といっしょに立ち上がらない場合には、手振り+「立ちましょう」を何回も(学習者全員が立ち上がるまで)くり返す。
  3. 教師が「座ってください」的な手振りとともに「座りましょう」と言って、座る。※ここで、学習者の勘が悪く、教師といっしょに座らない場合には、手振り+「座りましょう」を何回も(学習者全員が座るまで)くり返す。
  4. 「2」と「3」を何回かくり返す。(→教師が「立ちましょう」と言ったら、皆が立つ。教師が「座りましょう」と言ったら、皆が座る。というように、教師の言葉を聞いて正しく反応できるようになるまでやる。)
  5. 教師が「立ち上がってください」的な手振りとともに「立ってください」と言って、学習者を立たせるが、教師自身は立たない。※「2」「3」とは教師の発話が違っていること、教師が立たないことなどについては何も説明しない(学習者に気づかせる)。
  6. (「5」で学習者全員を立たせた後、)教師が「座ってください」的な手振りとともに「座ってください」と言って、学習者を座らせる。(「5」「6」ともに教師は座ったまま指示を与える)
  7. 「5」「6」をくり返す。※たまに「2」「3」を混ぜて「~てください」と「~ましょう」の違いに気づかせるということをしてもよい。

とりあえずこんな感じですが、これだけで十分?と不安な場合は、この後に「歩きましょう」「走りましょう」「歩いてください」「走ってください」をやったり、学習者全員一斉だけではなく、一人一人を指名して指示する(動作/反応させる)というのもいいと思います。

この活動により、「~ましょう」は教師とともにある動作を行う際に教師から発せられる言葉であること、「~ください」は教師が学習者にある動作を求める際に発せられる言葉であることを理解させます(と言うか、今後教師がその言葉を発したら学習者が反応するようにする、ということです)。

『みんなの日本語』にとらわれている先生たちの中には、「~てください」は14課でやるまで学習者にわかってもらえないとか、て形は難しいものとか、学習が進んだ学習者が学ぶものだとか、いろいろな固定観念にとらわれている(?)方がいるようなのですが、このようにTPRを用いれば、「~てください」というのが何を意味するのか学習者にはつかめるし、初級コースの最初のほうでこれをやっておくと、様々なシチュエーションで学習者に指示を出すのが楽になる(学習者に分かってもらいやすくなる)と思います。
「useful expressions」みたいな感じで「聞いてください」「見てください」などをコースの初めに教える場合もありますが、それだけではもったいないし、14課に行くまでに(普段の生活や授業の中で)色々な「て形/~てください」を学習者に聞かせておくと14課の授業がやりやすくなるんじゃないかなと思います。

様々な教授法の話→TPR②_b0420854_23130810.jpg
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# by sv-sasaki | 2022-08-08 23:17 | 教授法の話 | Comments(0)